第1章

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それに億劫に思いながら顔をあげると忍の後ろの二人と目が合う。忍と同じくコンビニ袋を手に持っている野沢秀二と吉田美優。俺を含めたこの四人が科学部のメンバーだ。と言ってもほとんどお遊びみたいなもので、科学部らしいことはほとんどやっていない。俺たちがやっていることはと言えば、この部室に集まって意味もないことをぐだぐだと喋っているくらいだ。なので、周りからの認識は、忍と言う馬鹿を中心に馬鹿やってる部である。この中で科学に親しいのは忍だけ。それ以外の面々は付き合いだ。俺を含めた三人には特にやりたいこともなかったから忍の誘いに乗ってこの部に入った。 秀二は黒髪でいつも笑顔を絶やさず、成績は中の上くらい。運動が得意らしいがその場面を見たことがない。読書が好きなのは知っている。秀二は笑いながら俺の隣の席に座る。それに倣って美優も俺の正面に座った。忍は一人で部屋の中で踊っている。鬱陶しい。 紅一点と言えば聞こえがいいが、美優自身にそんな華やかさはない。銀フレームの眼鏡、肩口で切りそろえられた黒髪に眉上で切りそろえられた前髪。瞳も黒い。服装が制服だからかろうじて高校生に見えるが、これが着物だったら等身大の日本人形に見える。夜なかには会いたくない。面白いことに美優の周りにはいつだって影が差している。本人もそれを自覚しているらしく、美優の言動はいつだって暗くてじめじめしていた。今だってこの暑さだと言うのにじめじめと……。いや、今はなんだか涼しげな顔をしている。いつもじめじめさが嘘のような晴れやかさ。まるで先ほどまでとても涼しい場所にいたから厚くないというような……。 「お前ら、職員室に入り浸ってきたろ!」 そこでやっと忍たちが帰ってくるのが遅かった理由に気付く。購買に買い物に行くなら選ぶ時間を考えても十分で帰って来られる。学校を出て近所のコンビにいったって往復十五分程度だろう。なのに、三人は四十分強の時間をかけている。その理由はやっぱりどこかで涼んできたからだ。狡いという気持ちで三人をギロリと睨めば、バカみたいに踊っていた忍が否定の声を上げた。 「違うぞ、典久!」 立ち止まり、胸を張って忍は叫ぶ。 「オレたちが入り浸ってきたのはパソコン室だ!」 だが、結局入り浸ってきたのは変わりなかった。がっくりと肩を落とす。 「コンビニ行った帰りにね」
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