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ダァンと力強く叩きつけるように机に置かれた小瓶。その中の液体は澄んだ薄緑色だった。小瓶は元はジャムが何かが入っていたのだろう。蓋の上に賞味期限が書かれていた。二千十六年二月十四日。相当前のものを洗って再利用したらしい。
時たま、忍はこうやって発明品のようなものを俺たちに披露する。それはいつだって嘘くさい代物だったが、それでもすべて本物だった。発明品に関してだけ忍はものすごい力を発揮するらしいというのが俺たちの見解である。まぁ、そのどれもが大抵、うっかりで紛失したり壊したりして、二度と作れなくなるので忍が有名になるなんて自体は起こらないのだった。
「一部だけ透明になる薬!」
勿体ぶった間を作った忍が興奮気味にそう叫ぶ。表情はボールを取ってきたから褒めてほしいと主人を見上げる犬のようだった。だが、透明になる薬といきなり言われても信じられない。目の前にあるのはただの液体が入った小瓶だ。掌に収まるくらいの量だし、そんなのは絵具を水にとくとかでいくらでも作り出せるだろう。なんというか、嘘くさい。今までいろいろ実績があるが、何故だかいつも忍の発明品を見せられると嘘くさいと思ってしまう。それはきっと、信じたくないという気持ちが強いからだろう。
このバカがそんな発明品を作れるはずがない。
俺はきっとそう信じて居たいのだ。そうすれば、忍がいきなりどこか遠くに行くこともないだろうと思って。
「嘘くさーい」
「嘘でも誰も困らないし問題ないよ」
なんて思っていると他の二人も嘘くさいと言う。なので、文句はそちらに任せてお茶を煽った。忍は皆に信じて貰えなくて拗ねたように机にのの字を書き始めている。ここで触れると面倒なので放っておくことにした。喉を通るお茶はすっかり温い。話している間に一肌のような温度になっていて渋い顔になった。
「うあー温くなってんじゃんかー。サイアクー」
文句を言うが誰もそれに反応しない。
「それより、扇風機。壊れそうで怖い」
「それなー。扇風機なかったら正真正銘暑さで死ぬわ」
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