第1章

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「オレか。オレなら、世界一周旅行だな!」 すると、すぐに答えが来た。眩しい笑顔で言われ、先ほどのじめじめした空気が吹き飛んでいくのを感じる。 「規模でかー」 規模のでかさに驚くと、美優が秀二に尋ねている。 「一周って何年もかかるんでしょ?」 「何年もかからないと思うよ。世界一周って言っても一周するだけで全ての国を回るわけじゃないし」 秀二の返答に俺もそうなのか、と納得する。世界一周と言うからには全世界を回るのかと思ったが、そうではないようだ。 「なんであれ、そんな旅に出たら忍は留年だな」 「留年は困る!」 しかし一年かかって回っていたら当然留年だ。そのことを指摘すればそれは困ると忍は叫ぶ。そこは普通の感覚があるようだ。 「じゃ、ま、使い道は保留でいいんじゃないか。つーかマジで帰ろうぜ。別になにをするってわけでもないんだろ」 全てを却下されたのでこうしてみる。実際、薬はいろんなことに有効活用が出来そうだったが、それよりも俺はこの暑い部屋から出ていきたかった。頭の先からつま先まで汗まみれで気持ち悪い。俺の提案に他の二人も立ち上がる。しかし、忍だけが駄々をこねる子供のように薬を使いたいと叫んだ。 「だが、オレは使いたい! この薬を使ってみたいんだ!」 けれど、こちらの提案を全て却下したのは忍だ。これ以上、俺たちはどうすることもできない。 「じゃあ、こうするのは?」 そう思ったのだが、美優には何か考えがあるようだ。忍の期待の眼差しが美優に向かう。キラキラとした眼差しが小さな子供のようで眩しい。だが、美優はそれを気にしないようで、手のひらを差し出した。 「貸して」 忍がその言葉に薬の瓶を手渡す。美優はそれを受け取って、あっさりと蓋をあけ、その液体を机の上にぶちまけた。薄緑色の液体が机を斜めに流れる。流れた液体は机に一瞬で染みこんで、机を透明にした。透明になった机の下の床がくっきりと見える。瓶の中の液体はこれで全てなくなった。 「机に掛けて、見た目だけ涼しげ」 さらりと告げて、美優が忍を窺う。だが、忍は予想外の事態に固まっているようでそれに反応できていなかった。だから、かわりに俺が反応しておく。 「見た目だけでぬるいわ」 透明になった部分を触ってそう言うと秀二が納得したような顔で言う。 「透明人間もきっと透明なだけで涼しくないんだろうね」
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