空気のように大切なあなたへ

5/17
前へ
/17ページ
次へ
 今の私の姿は、リョウタには見えていない。  今の無防備なリョウタになら、運動音痴の私のビンタだって届くだろう。 「どうしても今日、伝えたいこと、あったのに……」  構える私に気付くそぶりもなく、リョウタはコートのポケットに手を入れて中に入れてある物をいじる。  そこには小さな小箱が入っている。  綺麗にラッピングされて、かわいいリボンが掛けられた、リョウタには逆立ちしたって似合わない、小さな小さな箱。  その中に何が入れられているのか、私は開かなくても知っている。  その瞬間、あの店の中での光景がフラッシュバックした。  3年付き合った私ですら見たことのない、本当に嬉しそうな顔。  その言葉と表情に寄り添うように立つ、私の知らない女。  その光景は、幸せという言葉そのまま形にしたかのようで。 「……どうしよう」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加