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その声に、私は思わず一歩下がった。
あふれてくる涙を手の甲で拭い、必死に嗚咽をかみ殺す。
今の私は、透明人間。
音さえ立てなければ、私の存在には誰も気付かない。
事実、人の気配が少ない高級アクセサリーショップにだって、二人にくっついて忍び込むことができた。
入ってから出るまで、誰にも気付かれることなんてなかった。
「アカリ、そこにいるんだろ?」
だというのに、リョウタは、気付いてしまう。
今すぐ消え去りたいと、このまま空気に溶けてしまえばいいと思っている私に。
私が一歩下がるごとに、リョウタは一歩前へ踏み出す。
一人暮らし用の狭いワンルームに、逃げ回るような空間はない。
私の背中はすぐに壁にくっついてしまった。
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