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生蛎先生はこうも言っていた。
『転移するメカニズムは全く解らんが、おそらく、彼女の転移の切っかけは何らかの感情を起因に始まる、欲しかったブランド品を前に一喜一憂したりする、ならば幸福感に似た感情がスイッチとなるだろう』
オレは今なお恐怖にうち震えるか弱い美女の前に起立して、息を一つ飲み込み言った。
「ん?」
「三咲さん、オレ、いや僕は、あ、貴女が好きです」
「あー、え、えーっ」
そしてオレは彼女の目前に小さな箱を差し出した。
「け、刑事さん、これは」
カルトン三連リング、彼女が溜め息付いてあきらめた指輪だ、60万円、36回ローン。
「これを貴方に差し上げます、ぼ、僕と、け、結婚して下さい(いつか)」
「これ、私の欲しかったやつです、嬉しい」
彼女の瞳からまた涙か溢れた、その時。
「あー、あっ」
彼女が消えて行く、段々と体が透けて向こう側が見え始めた。
オレはその手を取り、彼女のか細い指にリングを通す。
「あーっ、赤井、お前まで透明になってきたぞ」
わめき散らす部長の言葉なぞもう耳に入らず、オレと三咲女史は見つめ合ったままだった。
「オレを受け入れてくれますか」
「‥‥はい」
彼女はにっこり笑って応えてくれた。
「では、行きましょう」
だからオレも笑顔で応えた。
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