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背こそ低いが、やけに姿勢の良い細身の年寄りの後に付いて施設の奥に進んだ、開けた扉はどれも勝手にロックがかかっていった。
けっこう歩くと思った時だ、無言に耐えられなくなったのか生蛎教授が口を開いた。
「私の研究ブースは受付から一番遠くにあってね、迷惑を掛けるね」
「あ、いいえ、お構い無く」
「それにしても、かれこれ10年振りか、君の事は良く覚えているよ、なにしろ私の突拍子も無い研究の熱心な支援者だったからな」
「いえいえ、面白がっていただけで、殆ど理解出来てない有り様でした、先生の超常現象レポートは本当に楽しかったです」
「ん、ただの環境生態学だが」
お年寄りと言ったが、話し方も耄碌した所はない、見かけよりも確りしているのは流石は生蛎先生ってところか。
「さあ、着きました、毎回老体には堪えるよ」
そう言って、カードキーを翳すと重々しい鉄のドアが左右に開いた。
「今はこの大学の研究施設で働いているんだが無駄にセキュリティーがキツくて困るよ」
「先生、いや今は教授でしたね、今日はよろしくお願いいたします」
この部屋もここまでの道のりも妙に乾燥していて喉が乾いていた。
「なんでも、私の意見を聞きたいと、役に立つかどうか、は別にして、さあ言ってみてくれたまえ」
手っ取り早くペットボトルのお茶をそのまま差し出し、両の手を組み、生蛎教授は既に聞く姿勢を作っていた、こんな話が出来るのは先生だけだと思っていたが、それでもオレの話を真面目に聞いてくれるだろうか。
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