透明な彼女の謎を解け

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「えっ、透明人間を捕まえる」 想定通りだが教授はすっとんきょうな顔をしてオレの言葉を繰り返した。 「ええ、正確には、窃盗犯の容疑者の透明人間です」 お茶の入ったペットボトルを右手で持ち上げたままフリーズしている生蛎教授を無視してオレは言葉を続けた。 「馬鹿げた話しとは思いますが、とりあえず聞いて下さい、これはれっきとした事件なのです」 そう言うと我に帰ったように教授は応えた。 「あ、ああ、すまんな、聞いていますよ、犯人は包帯でグルグル巻きの人って事かな、ハハハ」 コホンッ、咳払い一つして、オレは話始めた。 「事は、所轄内のとある高級ブランドショップで、商品を盗まれた、と被害届が出された事に始まりました。 容疑者は、20代女性、高価で綺麗な衣服とブランド品のアクセサリーに身を包んだ、長い髪とサングラスが印象的だと言う話です。 その女性は愛想良く、店員に新作のバッグを吟味するように訊き店員は当たり前のように客として対応し、気に入ったと言った限定バッグをショーケースから取り出して渡した、すると目を離した一瞬に忽然と、そのバッグと女性は消えていたそうです」 「ふうん、透明人間ねえ、失礼だが、私にはとうていそうとは思えない、仮に本当にその女性が犯人だとしてもなにかトリックを使ったマジシャンだとか、なにしろ透明人間とはナンセンスも良いところではないか赤井君」 この話を聞かせて、唐突に口を挟んだ教授の顔は、少し呆れた、と言うか、ガッカリした表情をさせてしまった、無理もない生蛎教授は環境生態学の権威でもあるサイエンティストなのだから。 だからこそ会いに来たのだが。 「話はまだ続きがあるんです、自分も見たのです、その女性が消える瞬間をこの目で」 教授の眼差しがますます冷かになった気がした。
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