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「後日、注意換気も兼ねて所轄内の似たような高級ブランド店を廻りました、どの店も万引き被害はソコソコ有るそうですが、透明人間を見たかなどと、訊く事も出来ませんでしたよ、そうです、その時は自分も全く信じる事など出来なかったのです」
お茶をカポンと一口飲んだ教授が口を挟んだ。
「人間が透明になる、或いはそう見せるには――
例えば、ステルス性能を発揮する装置で他人の視界を遮断する、一畳程の箱位の装置を使用するなら可能だが」
そんなトリック実際には不可能な事だと言わんばかりに教授は言った。
「じゃあ、皮膚を透明にする薬品とかは、無いですか」
言終わって、少し恥ずかしくなった、透明人間薬などとは。
「有るよ」
え、意外な応えにびっくりした。
「それは医療品として開発されている、ただし、部分的に皮膚と皮下組織部までの透視化が可能だが、筋組織や骨、内臓を貫通して反対側が見えるなどとは‥‥増しては、髪の毛、歯、更には衣服に至るまで透明になるなんて、ハハハ、漫画だよそれは」
「ですよね、あはは、ですが、自分は見たのです、女性が消えてゆく様を」
「ふうん、まあ良い、話を続けたまえ」
教授に悟らされ冷静さを失ったのは自分だと気付き、オレは話を続けた。
「はい、注意換気に入ったその店で店員の一人と話をしている時でした、ふと目に入った指輪の陳列しているショーケースの前にいた若い女性、とても美しく、彼女こそ数々のブランド品と見劣りすること無い可憐な容姿にオレは釘付けになりました」
教授は今度は茶々も入れず聞き入ったままだった。
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