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あれから一ヶ月が過ぎたが、犯人検挙はおろか例の女性に遭遇する事は一切無かった。
「だから、地道にやれと言ったではないか、店は管轄外にも沢山有るのだろう」
オレは再び生蛎先生の元を尋ねていた、そのブランド品の窃盗事件に固執し過ぎだと上司にどやされたからだが。
「はあ、確かにそうですが‥‥」
「まあ君がこの事件を気に掛けるのは当たり前だ、それは目撃した透明現象を誰も信じてくれないからだろう、それとも」
「えっ」
オレはちょっとドキッとした。
「疑心に感じてきたのかい、自分の見間違いだったのかと」
コーヒーを煎れながら先生は微笑んでいた、確かに先生の言った通り部長も同僚も署の人間は誰一人オレの見たことを信じてくれなかった。
「いや、その」
「私は信じるよ」
「せ、先生」
「フハハハハ、超常現象なんぞ良くある事だよ、なにしろ人間は70億もいるのだから」
自分の考えが及ばないのか、先生の視野が広大すぎるのか、とにかくピンともこない慰めだった、これが頭の良い人の思考なのかと無理やり納得した。
「いや、上司にどやされまして、ヘコんでいるだけですよ、たかが一件の盗難事件に掛かりっきりになるなと」
「ん‥‥赤井君、それは盗難届けが一件だけだと言う事かい?」
「いえ、盗難事態です、被害は最初のバッグのみで、自分が目撃したショップでの盗難被害は無かったそうです」
「驚いたな、指輪は盗まれては無かったと言う事かい、あの防犯カメラの映像では一緒に指輪も消えていたではないか、君はその場で見ていたのだろう」
「は、はい、確かに指輪ごと消えたと認識していましたが、でも店の被害が無いのが事実、消えた指輪は見間違いか自前の物と推測しました」
「そんな事は無いはずだ、不自然過ぎるだろ」
「と言われましても‥‥」
当時そのショップの店員に紛失物を詳しく調べてもらったが、無くなった品はなく、故に被害届も出さなかった訳だが。
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