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「どんな風に作ったんだよ、これ」
どうせ『湯せん』という意味が分からずに、チョコレートを直接火にかけた鍋に入れてしまったのだろう。
使用人に迷惑をかけないように、深夜の人の気配のない厨房で一人わたわたと孤軍奮闘する雅お嬢様の姿が見えたような気がした。
ふわりと、自分の顔に笑みが浮かぶのが、鏡を見なくても分かった。
ろくに学校なんて通わせてもらえず、執事としてずっと生きてきた。
それは『見えないモノ』として扱われてきた自分の価値を証明するためであり、誰かに必要とされたいという自分の声なき叫びでもあったと思う。
自分を必要としてくれるなら、誰だって良かった。
だから俺の主は、俺が15歳になるまで転々と変わった。
時に売られ、時に譲られ引き抜かれ、主の意向に否を唱えることも、仕える主に執着を見せることもなく、流れ流されここまで来た。
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