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雅お嬢様は、知らないだろう。
俺が引き抜きを断り、自分の意志で仕えると決めた主は、雅お嬢様が初めてだということを。
初めて出会ったあの時『この人が仕えてくれないというならば、他に執事なんていらない』と言ってくれたあの言葉が、どれだけ俺の心に光を差し込んでくれたことか。
向けてくれる気持ちが、どれほど俺の心を温めてくれたことか。
「ん。美味い」
苦みの強いチョコレートを堪能して、2つの箱を両方とも紙袋の中に戻して持つ。
もうそろそろ、本日の業務に取りかからなければならない。
逃亡した雅お嬢様を捕まえるという、大切な大切な業務に。
「……俺を永久に捕獲しておけば、料理なんていう手間は覚えなくてもいいんですよ? 雅お嬢様。
ひとりで生きてきた時間がそこそこ長いんで、家事はどれも得意なんです」
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