いつか、貴女と同じ月を

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「そうだよなぁ、雅。  お前、包丁もまともに握ったことのない、生粋のお嬢様だもんなぁ」  箱の中からそっとトリュフをつまみあげる。  厨房に入ることさえ使用人に恐縮される立場にある雅お嬢様は、学校の調理実習くらいでしかまともに包丁に触れたことがないだろう。  むしろその調理実習でさえ、触れていたのか否か怪しい所だ。 「初めての手料理ってことか? うわ、食べて大丈夫なんだろうな、これ」  そんなことを口ではうそぶきながらも、トリュフにくっついてしまったクッション材を丁寧に落とし、1粒口の中に入れる動きに躊躇いはない。  甘さ控えめに作られた……というよりも、焦げついてしまった苦さというか、そんな微妙はほろ苦さがココアパウダーでかろうじて誤魔化されているような、そんな味が口の中に広がった。
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