0人が本棚に入れています
本棚に追加
冷たい風の吹きはじめた、ある秋のことです。
ある家の一室に、見るからに病人といったようすの少女が臥せっていました。
少女の臥せる布団の傍らには、若者があぐらをかいていました。若者は、これまたわかりやすく、拗ねた顔をしています。
「人がせっかく無事に帰ったっていうのに、なんで死ぬかな。お前は」
少女の顔を見ながら若者は、病人にかけるものとは思えない辛辣な言葉を吐きました。
なんで死ぬかなあ。
終戦から数年後、シベリアから引きあげてきた若者は、毎日のようにとみ子の病床に訪れ、毎日のようにそう言って怒っています。
若者の名は、光俊といいます。
最初のコメントを投稿しよう!