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   冷たい風の吹きはじめた、ある秋のことです。  ある家の一室に、見るからに病人といったようすの少女が臥せっていました。  少女の臥せる布団の傍らには、若者があぐらをかいていました。若者は、これまたわかりやすく、拗ねた顔をしています。 「人がせっかく無事に帰ったっていうのに、なんで死ぬかな。お前は」  少女の顔を見ながら若者は、病人にかけるものとは思えない辛辣な言葉を吐きました。  なんで死ぬかなあ。  終戦から数年後、シベリアから引きあげてきた若者は、毎日のようにとみ子の病床に訪れ、毎日のようにそう言って怒っています。  若者の名は、光俊といいます。
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