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「まだ、死んでない」
布団のなかから抗議の声をあげる少女は、光俊の幼なじみである、とみ子です。
「死ぬよ、お前。死相が見えるから。おれんとこの隊長も死ぬまえ、そんな顔してた」
光俊は容赦ない言葉を降らせるけれど、悪意あってのものではないととみ子は知っていました。
光俊も戸惑っているのです。そして、むしょうにさみしがっているのです。悲しいのです。
せっかく、戦争が終ったのに。やっと帰ってこれたのに。
とみ子は死ぬのですから。
もちろんとみ子だって、無念でなりませんでした。
けれど、仕方がないのです。いや、仕方がないと思うしかないのです。
日本が戦争に負けたのも。とみ子が死ぬのも。
仕方ない。そう思い込ませるしか、ないのです。
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