第1章

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 私の目の前にニワトリの死骸が出され、私はぞっとした。 「先生ほら、見てよ。」 また、正志だ。ニワトリの目は死んでいるが、正志の目は輝いていた。 「こら!何やっているんだ。むやみに殺生してはいけないだろう。」 「えー、だって面白いんだもの。」 背筋が凍った。正志は学校きっての問題児だ。頭も悪くない、運動神経もクラスの中で上位に入る。だが困ったことに道徳観念、特に物事の善悪の判断が全くできないのだ。 私は他の生徒に見られないように正志を相談室に閉じ込め、ニワトリを処分した。無益な殺生はあれほどするなと言ったのに。 相談室に入ると正志の目を正面から睨みつけた。二、三年前よりは効果は落ちたがそれでもまだ効き目はあるようだ。正志はしゅんとなった。 「何度言ったらわかるんだ。人間だって動物だって生きているんだぞ。それを勝手に命を奪っていいことはないだろう。」 「でも...。僕たちは動物を食べているじゃないですか。人と動物は違うと思います。」 この子には言っても通じないなと思っている。でも教える者として言わなければならない。 「いや、同じだ。人間も動物も生き物を殺すが理由なく殺さない。みんなが地球で共存するために仕方なく最小限殺しているのだよ。」 室内に沈黙がおこる。無音の世界。音が外へ追放されたように。 「仕方ない、今日はこれくらいにしておくか。そうだな、次回の社会科見学まで考えておけ、その間に同じことをしたら、正志だけ居残って自習だぞ。」 「はい。わかりました。」 正志は今度の社会科見学を楽しみにしているのでとりあえずそれまでは子猫のようにおとなしくしているだろう。 だが、その社会科見学も重荷だった。正志はあの通りおとなしくできない子だから外へ出れば必ず何か問題を起こす。先月の秋の遠足を思い出し私は暗澹たる気持ちになった。 日々の雑務に追われ、社会科見学の日になった。バスを借り切り目指すは毎年懇意にしてもらっている地元の工場へと行った。 「みんなよく来たね」 この工場は大手の自動車メーカーや飛行機メーカーなど大手の製造会社の下請けを行っている。そこの第二部門工場の工場長さんは我が小学校の卒業生でありその縁で特別にうちだけ工場見学をさせてもらっていた。ありがたいことだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加