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私は子供たちを引率しながら工場を歩き回った。名前は知られていないが高い技術力を持っていて不況知らずだと工場長さんは自慢した。実際、その精密を極める作業は芸術の域だ。子供たちも細かいことはわからないがこんな町工場にこんなすごい技術があることはわかるらしい。夢中で作業を見ていた。正志もほかの子と一緒に釘づけになって見ている。
最後に工場長さんからプレゼントがあると言われ、子供たちは大喜びだった。
それは子供のてのひらサイズのミニ望遠鏡だった。
「こんな高価そうなものいいんですか?」
「ははは、いいんですよ。わが社はご存知の通り日本でも数少ない特殊技術を持っている。おかげで経営も良好です。在庫も見たところ十分余ってましたから。」
「それではお言葉に甘えて、ありがとうございます。」
私は恐縮しきりだが子供たちは望遠鏡に夢中だ。のんきなものだ。
「はい。我々もこの子達が将来、この業界を支えてくれる存在になってくれれば良いと思っていますから。」
私たちは感謝しきりでバスに乗り帰路へと向かった。
もうすぐ学校だ。心配していたアクシデントもおこらず終わりそうだと思い安心した。そう油断したのが甘かった。
「ズキューン。」
銃声音がしたかと思うとバスは急停止した。バスの停止した一キロ程先の歩道に人が血を流して倒れていた。眉間を狙撃されたようだ。
おそるおそる正志を見た。案の定犯人はこいつだった。正志の右手には発射したばかりの、先ほど工場でもらた遠距離スコープ望遠鏡を取り付けた拳銃がしっかりと握られていた。
学校に戻った私は校長先生に報告し、二人で正志にお説教をした。
「まったく、こんなことでは一流の殺し屋にはなれないぞ正志。工場長さんも参ってたぞこれで裏の仕事が知られたら困ると。」
さすがの正志もしょんぼりしている。
「ごめんなさい。」
私の勤務している小学校は殺し屋を育てるための養成機関だった。近年の少子化に伴いどこの業界も人手不足に陥っていた。殺し屋の世界も同様だ。しかもプロともなれば高度な判断力、技術、経験が必要となり一朝一夕では育たないいわば職人仕事である。そこで、人材の確保と英才教育のために本校が極秘に設立されたわけだ。スポンサーには事欠かなかった。裏家業の団体はもちろん、政治家、大企業、個人の資産家まで、世の中の需要がこれほどあるのかと驚いたほどだ。
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