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「…傘持って出ろなんて、言わなかったじゃないのよ!」
毎朝、日課のように見ている情報番組。そのお天気コーナーで、気象予報士のお姉さんは、今日、雨が降るなんて、一言も言わなかった。
その上、いつもなら、天気予報に関係なく折り畳みの傘が、バックに入っているのに、今日に限って、姿がない。
激しくなる雨足に、仕方なく、通りすがりの軒を、雨宿りの場所に決めた。
一向に止みそうにない雨を恨めしげに見ながら、今日の出来事を振り返って、溜め息をつく。
「…本当、今日は最悪な1日だわ。」
「…本当、今日は最悪な1日だ。」
私の声に、誰かの声がハモった。
ビックリして聞こえてきた声の方を向くと、声の主も、驚いた顔で、私を見ていた。
あれ?…どこかで、この人に会った気がするんだけどなぁ。横顔に、覚えがあるのよね。でも、私の記憶の頁を一生懸命捲るのだけれど、なかなかヒットしない。
うだうだするのは、性に合わない。私は、思い切って聞いてみることにした。
「あの、こんな時に失礼とは思うんですが、私、あなたにどこかで会ったことがあるみたいなんですよね。…でも、思い出せなくて。」
「…あなたもですか?」
「はぁ?…あなたもって言われると、聞いてる私が困るんですが…。聞いてるのは、私で…。」
「あっ…すいません。でもね、本当に、あなたに会ったことある気がするんですよ…どこだったかなぁ?」
私の隣にいる人は、腕組みして、真剣に悩み出した。
エエッ…そんなに、真剣になることなの、これって?!
思い出せないなら、それでもいいかと思い始めていたいたのに…。
申し訳なくて、私も、もう一度、記憶を手繰ることにした。
耳には、激しい雨の音だけが、響いていた。
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