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雨は、小降りになるどころか、さっきより酷くなった…。
「嘘だろ…。」
「足止めですね。」
「お茶どころじゃないよ…。」
「あのう…まだ、この時間だと、お仕事中なんじゃないんですか?」
「痛いところを突くねぇ…正確には、そうだけど、俺は、営業なんで、外回り中は、結構、時間の自由利くんだ。」
「…要は、サボりですね。」
「人聞き悪いなぁ…サボりしてるつもりはないよ。でも、そうとられても仕方ないか…。
だけど、神様は、見てんだよな。俺の邪な気持ちを察したのか、君をお茶に誘った途端に、この降りだよ…悪いこと出来ないね。」
「悪いことしてるって自覚はあるんだ。」
私は、ニヤッと笑いながら、そう言ったんだけど、返ってきたのは、深い溜め息と呟き。
「はぁ…。やっぱり、今日は付いてない…。」
「不躾ですいません、さっきも、そんなこと呟いてませんでしたか?」
「…そういう君だって。…まあ、いいか。
今日はね、朝一で、契約書交わすはずだったんだけどさ、相手の都合で延期になっちゃったんだ。この契約できてたら、俺、今月の成績一番になれたのにさ…。今月の締めが今日の夕方までなんだ。どう考えたって、同じ額の契約を、別口で、それも半日でなんて、無理だからさ…。諦めないと仕方ない。
気持ち入れ替えて、午前中、お得意さん回りしてたんどけど…これは、はっきり言って、とばっちりなんだけどさ、頭下げまくりの事態になっちまったんだ。
自分のミスなら、素直に頭下げるし、フォローだって、必死にするけどさぁ…。そうじゃないから、気持ちこもってないんだよ。それが、相手に無意識に伝わってんだよね。
それで、大目玉だよ…。おかげで昼飯食いそびれるし…。
今は、会社に帰る途中だったんだけどさ、この雨だろ…。クリーニングしたてのスーツ、また、出さなきゃならない。…溜め息も、出るさ。」
「あらあら、それは、大変でしたね。」
「同情してくれて、ありがとう。そう言う君は?」
「…似たようなものです、私も。…朝から、ついてないこと、ばっかりなんです。」
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