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雨は、いつのまにか止んでいた。気付かないくらい、おしゃべりが楽しかったんだもん。
「やばっ!…ごめん、お茶に誘ったのに、今からだと、ちょっと不味いんだ…。次、もし、会えたら、絶対、お茶ご馳走するよ。」
腕時計を見た彼が、かなり焦っている。
私も、釣られて腕時計を見る…。あはっ…確かに、この時間は、ヤバイわ。
…30分や1時間じゃなかった。
「私も、帰らないと、課長に、本当に怒られちゃいます。…またが、あるといいですね。」
「うん。あるといいね。」
行きずりの私達。ただ、雨宿りしていただけの私達。またの機会が、そうそうあるとは思えない。
だけど…何千分の一、何万分の一の偶然が、起こるといいなって、思ったんだ。
それから、雨が降ると、あの雨宿りを思い出す。
「…名前とか、連絡先聞いとくんだったなぁ。」
後悔先に立たず。彼には、その後、ずっと会えないままだったけど、心の中に居座ってしまった。
『思い出してよ、俺が誰か?』
初めての筈なのに、前に会った気がするあの人は、何処の誰なのかなぁ…。
『思い出して。私のことを。』
どこで、いつ、どんな時に、私に会ったのか、思い出せたかなぁ…。
霞の向こうの答えを、私は、早く知りたかった。
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