はじめに

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「おい」 「……あ……ん……?」 「おい」 「もぉ……、おき……」 「……おい!」 「痛……っ? な、何っ?」 丸めた書類で、隣りのデスクに沈没した後頭部を叩いたら、 思いの外軽快に「ポコッ」と音が鳴った。 ガバッと顔を上げた男は、その口からだらしなくヨダレを垂らしている。 「何、じゃねーよ。古賀てめぇ、いつまで学生気分でいやがる」 俺は、瞼を重そうに持ち上げる総務部の中堅社員、古賀の頭をもう一度叩いた。 古賀はヘラッと笑う。 「一応、社内に誰もいない時しか寝てないよ? 今日は内勤、きょーちゃんだけだし」 古賀はまだ夢見心地なのか、遠い昔に封じたはずの懐かしい呼び名で俺を呼ぶ。 「会社でその名前で呼ぶなアホ」 「ははは。恥ずかしがってる。きょーちゃんかわい……、ふぁ……」 「気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇつか寝んなつってんだろ」 古賀公司と、俺、柏木京介は、実家は隣り同士。 田舎町で育ち、勤めまで同じという究極の腐れ縁だ。 地元を離れることなく進学したら、数奇にも就職先まで同じになってしまった。
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