一夏

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◇ 始まったばかりの夏休み。 冷房が適度に効いた店の中で可愛いコちゃん達の面倒見てる俺 「ど、どーしよ…ゆっきー…。」 カウンターを挟んで目の前で、俺の名前を呼びながら、なぜかハムスターの“うなちゃん”に話かけてるゆず。 わかってるかな? それ、俺じゃなくて『うなちゃん』だって。 それにそんなにプルプル震えて…店長が見たら、チワワと間違えられて、犬ゾーンのゲージに入れられちゃうんじゃないの? 「ん?柚優ちゃん、来てたんだ!」 「あ…店長、こんにちは…。」 「そんな震えてっと、チワワと間違えてゲージに入れちまいそーだぞ?」 ほら、やっぱり! 「ゆず、何かあった?」 「あ、あの…ね?…佐倉君に花火大会行こうって言われた。」 うっそ?!マジで?! ナギ、誘ったんだ…。 「誰だ、佐倉!連れてこい!俺が話を付けてやる!」 「いいじゃん!浴衣とか着ちゃってさ、楽しそうだよ?」 「スルー…之斗、冷てえな…。」 あ、店長ごめん! つい興奮しちゃったからさ。 「わ、私…どうすればいいか…佐倉君と二人で花火見に行くなんて…。」 「どうすればって?」 「な、何を話せばいいかわからない…。」 「いつも普通に話してんじゃん。それじゃだめなの?」 「い、いつもは用事があるから話せるんだよ…水やりの事とか、うさぎの世話の事とか…。 会話が弾まなくて『つまんない奴だ』って思われて…嫌われたら…」 目に涙いっぱいためちゃって…。 「…ナギが好き、なんだ?」 俺の言葉にみるみるほっぺたが赤くなってく。 「いいじゃん、いいじゃん!絶対行った方がいいって! じゃあさ、うなちゃんの話とかしてみ?ナギ喜ぶよ?」 「そ、そうなの…?あ、まって!」 慌てて鞄からノートとボールペンを取り出して、俺のうなちゃん話を熱心に書き始める姿に、ちょっと苦笑い。 超、一生懸命じゃん。 頑張ってね…ゆず。 ナギは幼馴染っていうあの大人の女の人と何かしらあった一年前位からどっか冷めてて、だからこんな風に誰かに自ら踏み込んでくなんて思わなかった。 良かった…よね、これ。 何となくほっとしたのと同時に何となく寂しい気持ちがこみ上げたら、目の前の『うなちゃん』と目があって苦笑い。 …まあ、寂しいなんて言ってる場合じゃないよね、俺も。 「よ、よし…あとは、これを暗記して…」 ゆずは本当に一生懸命だよね、ナギのこともだけど、うさぎのことも、水やりのことも。何でも、真面目にやろうとする。 もっと肩の力を抜いてもいいんじゃないの?何て思う時もあるけど。 きっと、ゆずの一生懸命さが、ナギに響いたんだろうなって思う。 そして、俺にも。 ゆずを見てるとさ、俺ももっと頑張ろう!って思えて、何度も前を向かせてもらってるから。 まあ…俺は部外者だからできることなんて少ないけど、二人のこと全力で応援してるからね。 .
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