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ゆっきーが背中を押してくれて、ようやく前向きになれて
じゃあ…浴衣を着ていこうかなと、近所の骨董屋さんの二階で見つけた浴衣をお母さんに着付けしてもらって髪も結ってみた。
待ち合わせの駅の改札でスマホを見たら、ゆっきーからメッセージが送られてきていて。『がんばるんだよ!』ってバナナが『ぬおおおお~』って燃えてるスタンプに思わずクスリ。
ゆっきー、ありがとう…。
「何?なんか面白いもんでも見つけた?」
スマホに見入ってたら、隣から聞き慣れた声。
「あ…うん。ゆっきーから…。」
「あ、それ、俺にも来たわ。やたら、バナナが燃えてるやつ。」
佐倉君にも送ってたんだ…何でだろう?
「…とりあえず、行きます?」
「う、うん…。」
歩き出そうとした瞬間、握られる右手。
「浴衣、似合ってんね。」
唇の両端をキュッとあげるその笑顔に心音が跳ねた。
体が…熱い。
行き交う人の熱気にのぼせそう。
だけど握られてる手の感触だけが顕著で、余計に鼓動が早くなる。
嬉しい…な。
思わずキュッて握り返したら、佐倉君が少しだけ振り向いて笑った。
「…人混み、もう少しだけ我慢して?特等席用意しますから。」
ああ…なんだか、夢をみてる見たい。
幸せな…一夏の夢。
佐倉君に連れられて来た、高台の公園。
「ここさ、ちょっと遠くはなっちゃうんだけど、結構綺麗に見えるんだよ、花火。」
あまり知られていないのか、人もちらほらで静か。
「去年、之斗と…拓海って知ってる?A組でさ、生徒会に入ってる笠井拓海。それから…近藤昴ってやつ。ヤロー4人で来てさ。寂しく見てたんだよ、ここで。まあ、今年は感謝してますよ?ヤロー4人でくる事をあなたのおかげで免れましたから。」
「え?!あ、あの…寧ろ、羨ましいなって思うよ?」
「ヤロー四人が?」
フハッて笑う佐倉君に帯締めが余計にきつく感じた。
友達と仲良くどこかに出かけるのとか…いいなって思ったのは確か。
でも、本当は、佐倉君と仲が良くていいなあと思ってしまったのもある。
…とはいえ、そんなこと言えるわけもなく。
友達と出かける方だけ話をしてみる。
「他の二人はわからないけど、ゆっきーは一緒に出かけたらきっと楽しいだろうなって。特に二人は仲良しだから…。」
「あ~まあ、中学からの腐れ縁だしね。でもうっさいよ?あいつ。」
ゆっきー、佐倉君と居る時、本当に楽しそうだもんね。
二人のやり取り思い出して笑ったら「ほら、柚優だってそう思ってんじゃん」って佐倉君が眉を下げた。
「そ、そんな事ないよ?ゆっきーはいっつも明るくて、私の事助けてくれるから。」
今日だって、ゆっきーが背中を押してくれて頑張れているんだし…。
「…私にとっては大切な友達、だもん。」
「…そっか。」
うつむき加減に笑った佐倉君の顔が少しだけ寂しそうに思えたなと思ったら、柔らかな笑みのまま視線を私に移す。
すっとその手が伸びて来て、頬を指先が掠め、私の耳に横髪をかけた。
「…風がちょっと強めかもね。髪、なびいてた。」
…遥か遠く。
花火が轟音を響かせて、辺り一面に色とりどりの明かりをちりばめ始める。
だけど
揺らめいている、佐倉君の琥珀色の瞳に映っているのは………私。
「ねえ…俺と付き合ってよ。」
また空が彩られ、轟音が響いた。
「まあ…さ?ゆっくり考えて?」
佐倉君は、返事を待たずに、向き直って柔らかい笑顔のまま色鮮やかな花火を見上げる。
「でも、手、繋ぐくらいは許される?」
目の前に差し出されたその掌。戸惑いと、動揺をそのままに
「……。」
そこに自分のを重ねた。
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