一夏

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. 「お、ブライアン。たまには俺に抱っこする?」 目を細めて笑いながら、ブライアンだけを持ち上げる。そのまま、膝に乗っけてあげてなでなで。 「おー今日は大人しくていい子!」 ゆっきー…わかってたんだ、どうして自分がブライアンに蹴られてるか。 優しい眼差しをブライアンに向けながら、スラッと伸びた指で丁寧に撫でてあげるゆっきー。ブライアンは満足気に目を細めた。 …ゆっきーは。 ブライアンを含め、全てのウサギに分け隔てなく優しいから。寄ってきたうさぎをちゃんと全部平等に扱って抱っこしようとする。 ブライアンはそれが嫌だった…多分。 自分を一番にかわいがってほしかったんだよね、きっと。 「…ナギってさ、ちょっとブライアンに似てるって思わない?」 「え…?」 「あ、見た目じゃないよ?まあ…見た目も可愛いけどさ、同じように。」 ニカッと白い歯を見せて笑うゆっきーに私もつられて少し笑顔。 「…ナギって寂しがりで本当は構ってほしいって思ってても、しれっとしちゃってさ。 だけど、ゆずには違って…。自分から絡みに行くし、ずーっと楽しそうにしてるし。 一緒に居たいんだろうな~って、すっごいわかんの。 『よっぽど好きなんだろうな~』って。」 そこまで話して、ゆっきーが、あ、そうだと何かを突然閃いた。 「ねえ!花火見に行った時、ナギと手を繋いだ?」 「え?!う、うん…」 「じゃあゆず。手、出してみ?」 ……手? 意図がわからず、「ほらはやく!」って言われて慌てて手のひらを出したら、ゆっきーの大きな手で、ギュっと握られる。 「…どう?」 「ど、どうって…びっくりしてる…けど…。」 「ナギと繋いだ時はどうだった?」 佐倉君と繋いだ時……。 「そ、それは…。」 どきどきして…胸が苦しくて。 だけど、すごく、すごく、嬉しかった。 ギュッと握ったまま、私の顔の前までその手を上げるゆっきー。 「ゆず、ナギともっと手を繋ぎたいって思わない?」 それは…… 「おも…う。」 「でしょ?じゃあ、悩まない!ゆずの想ってる事全部そのまま伝えれば大丈夫!絶対、全部ちゃんと聞いてくれるし、受け止めてくれるよ。 ナギはそう言う奴だよ?」 そ、そうなのかな……。 「ほら、行った行った!早くしないと、ナギ、帰っちゃうよ!」 「う、うん…。」 背中を押されて、そのまま、農園の入り口目指して、全速力で走り始める。 …戸惑いが消えた訳じゃない。 でも…うん、そうだ。 『ナギはそう言う奴だよ!』 ちゃんと伝えてみよう、佐倉君が好きなことも、私の不安も全部。 うさぎ小屋のある部屋を出て、農園の入り口目指して走ってたら途中で佐倉君の背中を見つけて。 「佐倉君!」 声をかけたら、佐倉君がゆっくり振り向いた。 え……? その表情と雰囲気に思わず息を飲み、足がすくむ。 あの…出会った雨の日と…同じ空気な気がする。 寂しそうで…他者を一切寄せ付けないような…。 ゆっきーに背中を押されて勢い付いていた気持ちが、押し戻されたような感覚になった。 「…制服なら、乾いてた。」 佐倉君は、真顔のまま、近寄って来て私にそれを押し付ける様に渡す。 「あ、ありがとう…あ、あの…。」 「…何?」 …さっき、私のせいで気まずくなってしまったから、まずは、謝らないと。その上で、ちゃんと気持ちを話そう。 「ご、ごめん…ね?その…さっきは。」 「…ああ。」 うつむき加減に目を逸らし、鼻で空笑うその表情に、更に緊張が走った。 「その…私…「いいよ、別に」 「…え?」 「や、ほら…いきなりね?友達面してたやつに『付き合って』とか言われちゃったらさ。」 「そ、そんな事は…」 「あ~いいよ、いいよ。俺も言って失敗だったなーって反省したし。」 「は、反省…。」 「『気まずいです』って空気あんだけだされちゃうとどうもね。 苦手なんだよ、そういうの。面倒くさい。」 再び視線を合わせた佐倉君の表情は冷たさを纏う。だからだろうか、燦々と浴びているはずの日の光でさえ、寒く感じた。 「…つかさ、そんなんなら、ハナから期待させるような事すんなって思うけど。」 去ってく佐倉君の背中を追いかけて、伝えなきゃいけないのに。 『好き』って叫びたいのに、全く足が動かなくて、ただ、溢れ出した涙が頬を伝って落ちていく。 『ねえ…俺と付き合ってよ。』 優しくも、寂しさを少し纏っていた佐倉君の瞳が頭の中に浮かぶ。 …私、何をやっているんだろう。 悩んで、前に進めなくて、気まずくなって…結局、こうやって嫌われて。 本当に…バカだ。 .
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