一夏

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◇ …花火大会以来、敢えて俺から連絡は取らなかった。 別に柚優を試してたってわけじゃないけど。 何でも真面目に考える柚優の事を思えば、時間は必要だよねって思ってたし、俺は柚優がきちんと考えて出した答えを聞きたかったから。 まあ…何度も、スマホのやり取り画面を開いては閉じ、開いては閉じって感じだったけど。 とにかく、柚優と会えない日々は、ほんの数週間なのに、すっごい長く感じて。3人でのメッセージのやり取りに「あーやっと会える」なんて気持ちが浮かれた。 …けど。 それは、どうやら俺だけだったみたいで。 之斗が制服を取って帰って来たらあからさまに安心した顔んなった柚優に思わずため息。 …や、別にさ。いいんだよ。 元々わかってたことだし。柚優が之斗には全面的に心を開いてるってことも。 でもな…さすがに、ここまであからさまに俺といて気まずいって雰囲気を出されて、之斗の所に逃げられたら、やっぱ傷つくわけよ、俺だって。 一応さ…俺、あなたに「付き合って」って言ったでしょ? その上で、そんな避け方すんの?…ってさ、思うわけ。 「ナギ!」って呼ばれた之斗の声に、振り向かないで振った掌がやけに寂しかった。 何か…早まったのかな、言うの。 いや、でも、タイミング的には別に悪くなかったって思うしな…。 園芸部の作業台で、乾いた制服のワイシャツとズボンを手に取った。 …届けてあげた方がいいか、柚優にも。 ついでに柚優の制服もおろしてる自分に、苦笑い。 ほっときゃ自分で取りにくるでしょ。 あれだけやられたのにまだ関わろうとしてるってさ。どんだけハマってんだって話だよ、柚優に。 持ってた制服を思わず握りしめた。 柚優の制服の感触が、抱きしめられた時の心地よさを呼び起こす。 …やっぱ無理だわ、このままとか。 ちょっと強引かもしれないけど、柚優とちゃんと話ができるように考えよう。 意を決して、再び戻ったうさぎ小屋。 けれど。 開いていたドアから入ったところで、階段下に居る二人の姿に、思わず足が止まった。 お互い手をギュッと握って、何やら二人で見つめ合って…多分、一番見ちゃいけない光景。 之斗もだけど、柚優は…俺が見てるなんて、目の端にも映ってない。 その瞳には…100%之斗だけ。 ああ…これ、もう、ダメだわ。 二人に気が付かれないようにそっとうさぎ小屋を出た。 …頭の片隅ではわかってた。 “柚優の中では、之斗が一番で、きっとそれは変えられない” 柚優は…きっと相手が俺じゃなくたって、友達ならなんとか励まそうとするんだよ。 無意識に『なんとかしたい』って、気持ちが動く。 弱ってる目の前の奴をほっとけない。 それもどっかでは理解してた。 そんな柚優に俺が勝手に惹かれただけだしね。 だけどさ… 『うさぎってね、寂しいと死んじゃうんだって!』 一生懸命に俺を抱きしめて震えてた柚優を思い出して、ため息をゆっくりはいた。 …俺にもチャンス位あんのかな~って、思ってたんだけど。 結局、俺が一人で浮かれてて、それを柚優が一生懸命受け止めてたってだけの話だったのかもね。 外に出て、再び農園へと行く道は、照りつける太陽の熱で暑いはずなのに、もはや何も感じない位で。 見るもの全てが色褪せているような気さえした。 「佐倉君!」 柚優が現れたのは予想外だったけど、どうせ…俺が不機嫌になったのを何とかしようって、無意識に動いただけでしょ。 もういいよ、そういうの。 俺に気持ちがないなら、ほっといてよ。 柚優が何かを話そうとしても、自分にとって不都合な話なんだって思うと、どうしても聞きたくなくて、柚優の言葉を遮って。 『面倒臭い』 自分が言い放った言葉に柚優の目が揺らめいたけど。 それでも矛先が柚優に向く。 「…つかさ、そんなんなら、ハナから期待させるような事すんなって思うけど。」 本当に、俺は最低だわ。 『柚優がきちんと考えて出した答えを聞きたい』なんて偉そうなこと言って、自分に都合の良い答えが来ることを期待して、そうじゃないからってこうやって突っぱねてさ…自己中も良いところだよ。 …その日は、家に帰って布団に入っても全く寝付けなくて。 ゲームしてても全然頭に入ってこないで、ゲームオーバーばっかり。 「あ〜もう…」 あんなにのめり込んでた紗枝さんでさえ、立ち直れたんだからって考えて、自分を自分で諭してみても、でも、それも柚優ありきじゃんて、堂々めぐり。 とっくに深夜になった静かな空間で、天井を仰いでため息ついた。 …けど、そこに浮かぶのもやっぱり柚優のいろんな表情とか、抱きしめたり触れた時の感触ばっかで。 「…どうしてくれんだよ。」 結局何も手につかないまま、朝を迎えて、勝手に、ムスッとしながら起き上がる。 カーテンを開けたら、太陽が少しだけ昇って来ていて、薄黄色の光が空を深いグラデーションに染め始めていた。 そういや…多田君の宿題移した時、2、3日徹夜したな…。 あと、柚優が俺に気を遣って、「水やりしちゃった」ってメッセージをくれた次の日も。 早朝って何時なわけ? いや、その前に何そのいらない気遣い。俺は柚優に毎日会いたいんだけど。 なんて柚優からのメッセージに心の中でツッコミ入れて…時間がわかんないから、絶対寝坊できないって思って…結局徹夜。 「柚優さん…俺、あなたのために結構な回数、徹夜してるんだけど。」 そんな悪態を呟いてから苦笑い。 …まあ、さすがに昨日は言い過ぎた…よな。 離れられないなら、とりあえず普通に友達ヅラするしかない。 ベッドから立ち上がると、よしっと腹に気合いを込めて制服のシャツに袖を通した。 .
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