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◇
とにかく…柚優に会ったら、昨日は言い過ぎたって謝って…普通に接しよう、なるべく。
そう、覚悟を決めて行ってみた農園。
けれど、柚優の姿はなくて、之斗が入り口でムスッとした顔で立っていた。
「…おはよ。」
「おはよ、じゃないよ!」
「な、何だよ、いきなり。とりあえず水やりしようぜ、こんなところに突っ立ってないでさ。」
「もう終わってる!」
「…え?」
「水やりも、うさぎの世話も全部、俺が来た時には終わってたよ!
ゆずがやったんだよ、一人で!」
「…ああ、そうなんだ。」
まあ、昨日の今日だからそういうパターンもあり得るなとは思ってたけど、柚優の事だから。
「なあ、昨日、ゆずがナギのこと追いかけてったけど、会わなかった?」
「会ったけど…。」
ズイッと怒り顔を俺に近づける之斗に思わず少したじろぐ。
お前がそんなに目を三角にしてるの初めて見たんだけど。
「ちゃんとゆずの話、聞かなかったわけ?」
「や、聞くも何もさ…。」
あんな態度取られて、直後にあんな光景見せられたら、一目瞭然だろ。
聞くまでもないし、別にもう改めて聞く気もないし。
俺の態度があからさまに投げやりだったんだと思う。之斗の眉間のシワがさらに濃くなり、口が尖る。
「あのさ…悪いけど、俺、忙しいの!今『うなちゃん』の事で頭も身体もフル回転なんだよ!」
「…そうですか。」
「『そうですか』じゃないよ!好きなんだろ?ゆずを!」
…之斗め。
ストレートも良いところだわ。
「…お前だって好きだろうが。」
「好きに決まってんじゃん!ナギだって大好きだよ、俺は!悪い?!」
…いや、悪かないけどさ。
そう言う意味なわけ?今問われている『好き』って。
それとも、真面目に恋愛対象?
之斗の線引きがよくわかんないんだけど。
小首を傾げて怪訝そうにした俺に構わず、之斗は更に口を尖らせ訴える。
「俺さ、『二人はうまくいく』って思ったら、なんかすごい寂しくなってさ。
『今まで通り、三人で仲良くなんてむりだよね』って。
でもね?
その後すぐ『それは違う』ってうなちゃんのおかげで反省出来たの!
ナギもゆずも付き合ったって俺をのけ者にするような二人じゃないって!だから、全力で応援しなきゃって!」
うん…ありがとう。
や、感動的な事言ってくれているし、柚優に関して之斗の中では、まあ…微妙だけど友達としての好意だってのは何となくわかった。
そして、それで、あの花火大会の日のバナナのスタンプかって繋がってスッキリはした。
でも気になる、『うなちゃんのおかげ』
之斗、一体『うなちゃん』とどういう関係なんだ?ハムスターだよね?『うなちゃん』って。
「ナギ、聞いてる?!」
「お、おう…。」
「ねえ、花火見に行ったとき、ゆず、うなちゃんのこと話した?」
「え…ああ、まあ…」
「あれ、俺がゆずにした話なんだけどさ…ゆず、一言一句、ノートに書いてた。」
「…は?」
「花火見に行って、お互い無言になって『つまんない』ってナギに思われたら嫌だからって言ってさ。ナギに嫌われないように!って超必死だったんだよ?」
そっか…それで柚優、すんごい辿々しく話してたんだ、あの時。
不意に花火大会のあの日が脳裏に蘇る。
花火が終わっても、俺が繋いだ手を離したくなくて、暫く強引にそのまま煙の残る夜空を見上げてて、何となく出来た沈黙を破ったのは、柚優だった。
「あ、あのね?うなちゃんはね?」
突然のうなちゃん話に「どした?」って思いながらも、「えっと…」って一生懸命話す柚優が可愛くて、ずっと隣で見てたっけ。
…まあ、だから実際、『うなちゃん』についての内容はうろ覚えなんだよな。
あの時ちゃんと聞いてたら、之斗とうなちゃんの関係も少しはわかったのかな。
…ってそれはいいとして。
柚優が…俺のために話を用意して、それを…丸暗記。
俺に嫌われないようにって?
之斗、すっごいネタ出して来てくれんじゃん。
思わずにやけそうになった顔を隠すように、顔を俯かせた。
「…なに、そんな必死なの?柚優。」
「必死も、必死!ナギのことしか頭にない…あ〜……いや、そうでもないか。」
「之斗…そこは最後まで言い切れよ…。」
「や、ライバルがいたな~って思ってさ」
「…茂田センパイはライバルじゃない、悪いけど。」
「違うよ!ブライアン!」
「…確かに。あいつは強敵だわ。何かにつけて狙ってる。柚優の膝と指。」
俺の言葉に日の光に負けない笑顔を返す之斗。
…敵わないね、之斗には。
こいつは昔っからそう。
後ろ向きな気持ちも全部前に向けてくれる。
「なあ、之斗。」
「何?」
「デコ出して。」
「え…?」
「いいから、早く。ほら!」
無理矢理、サラサラの黒髪をあげさせて、出させたおでこ。
「おりゃっ!」
「イッテエ!」
渾身の力を込めてデコピンをお見舞い。
「あ~スッキリした!」
「何?!ひどくない?二人の仲を取り持とうとしたのに!」
「胸に手を当てて自分の行いを省みてください。手を握るとか言語道断だから。」
之斗はデコを押さえ、涙目のまま、ニヤ~っと白い歯を見せる。
「ナギ~!」
「絡むなよ、暑苦しい!」
「もーヤキモチなんて妬いちゃって!俺はナギが大好きだつってんじゃん!」
その高らかな笑いが、青空にどこまでも響いてった。
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