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レナ、と、彼は私を呼ぶ。
愛しげに目を細め、顔を緩めて、これ以上などなかろうといえる優しい発音で、レナ、と。
彼は、心からレナが好きなんだろうなと、思う。
その対象であるレナが、突然私になってしまって、心底申し訳なく、恐縮だった。
ある朝起きたらここにおり、唐突にレナと呼ばれ始めた私に、自分がレナだという実感はない。
彼に、レナと呼ばれ続けても。
この華美な天蓋ベッドで軽すぎる羽毛布団にくるまり気持ちよすぎるしっとりすべすべな絹のネグリジェをまとって眠ることに馴れた、今でも。
瞼の向こうに光を感じて目を開けた。
同時に目に入る、花模様の天蓋。
ローラ・アシュレイをアクセル全開にして、金具や柱に意匠を凝らして豪華にしたとでも言うシロモノか。
この華美な装飾を絶佳と手放しで讃えるべきなのか、それとも悪趣味だと蔑む域のものなのか、私には判断つかない。
自分のセンスに自信があるでなく、センスを磨くだけの知識もなく、その知識を備える努力をする気力も、私にはなかった。
詰まるところ、そういった類いのモノに接点も興味もなかった。
ただ、子どもの頃夢見た『お姫さまへの憧憬』が胸の奥でくすぶり続けていたようで、私の中の幼い私が飛び上がって喜んでいるのは判る。
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