偽りの証拠

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遠くで鳴っている着信音にやっと気づき電話に出ると、市役所に着いた圭さんからだった。 どうやら、私はクローゼットの前に座り込んでいて、かなりの時間が経ってしまっていたようだ。 「加奈? 今どこにいる?」 電話の向こうの圭さんは酷く慌てていた。 「ごめんなさい。家を出ようとしたら立ち眩みがして」 そんな嘘がスラスラと口から出たことに驚いた。元々私は嘘つきなのかも。 「家にいるんだな? 良かった」 ホッとした声を漏らした圭さんは、きっと私が途中で具合が悪くなったんじゃないかと心配していたに違いない。 「心配かけてすみません。こんな体調で外出するのは怖いので、今日はやめてもいいですか?」 圭さんを騙したまま婚姻届を出すなんて出来ない。 かと言って、今すぐ圭さんに本当のことを告げる勇気も出なかった。 でも、そんな私の悪あがきはあっさりと却下されてしまった。 「じゃあ、一旦家に帰って俺が1人で市役所に出しに行くよ」 「えっ、でも、こういうことは2人で行った方がいいんじゃないですか?」 「いや、加奈は無理するな。すぐに帰るから」 どうしよう。 でも、私の思い違いかもしれない。 妊娠週数や出産予定日は最終月経から割り出すとネットで読んだ。 だとしたら、月経の日にちを私が間違えていたのかもしれないし、よく覚えていなくて胎児の大きさから割り出したのかもしれない。そういうこともあると書いてあった。 自分にそう思い込ませようと必死だった。 圭さんと結婚したい。圭さんと赤ちゃんと3人で幸せな家庭を作りたい。 帰宅した圭さんは私を見るなり、泣きそうな顔でギュッと抱きしめてきた。 「良かった。加奈」 圭さんが本当に私を愛し気に見るから、私は何も言えなくなってしまった。 その晩、私は圭さんと戸籍上の夫婦になった。
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