偽りの証拠

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記憶がないということはモノに対する思い入れもないということで、私の荷物の片付けはサクサク進んだ。 今、必要じゃない物はとにかく捨てる。でも、捨てる前に一応、圭さんには見てもらった。 今の私にはいらない物に見えても、もしかしたら2人の思い出の品かもしれないから。 実際、そういう物も幾つかあって、それを見つめる圭さんの瞳は切なげに揺れた。 2人の思い出をしっかり記憶していて大切に思っている圭さんと、ただのゴミに思えてしまう私。 私たちの間にある隔たりを実感する度に、早く記憶が戻ったらと切実に思った。 初めに疑いを持ったのは、エコー写真を見つけたときだった。 家計簿に挟まっていたエコー写真は、妊娠が判明した時のものだろう。 胎児の初めての写真を見つけたことに私は小躍りして喜んだ。 写真の脇に『6w』と印字してあるのが6週目を意味することはすぐにわかった。 『11.11』は出産予定日。 でも、『3.5』は何だろう? その疑問は一緒に挟まっていた病院のレシートを見てわかった。 レシートの日付は3月5日。 どういうこと? 私が倒れた日は3月19日だった。 そして、もう一つ。 病院の住所が東京ではなく、鎌倉だったこと。 実家は仙台だし、私の前の家も会社も今住んでいる圭さんのマンションも東京だ。 なぜ鎌倉の産婦人科に行ったのか腑に落ちない。 たまたま鎌倉に滞在していたのかとも考えたけど、家計簿のレシートを見ると当日の朝に自宅近くのコンビニでおにぎりを買っていて、夕方にはいつものスーパーで買い物をしている。 電車の移動時間や病院での待ち時間を計算すると、鎌倉には受診のためだけに行ったとしか考えられない。 なぜ? その産婦人科が有名だからかと思い、ネットで検索したけどホームページすらなかった。 どうしてわざわざ遠くの病院まで行ったのか。 どうして2週もずれているのか。 出産予定日は合っているけど、あの日、本当は6週じゃなくて8週だった。 ちゃんと計算すればわかったことなのに、私は圭さんの言葉を鵜呑みにしていた。
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