プロローグ

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プロローグ

地面に倒れこむ男たち。 飛び散る赤い紅い色。 むせかえるような血のにおい。 辺りに響きわたる怒声や金属のぶつかり合う音。 そこに1人の青年が佇んでいた。 全身真っ黒で、持っている刀だけが鈍く光っている。 闇に溶け込むようにして立っていた青年だったが、1人の男が青年に気づいて剣を振りかぶる。 グサッ! 肉をさく確かな手応えに、男はにやりと顔を歪めた。 だが、暫くしてふと違和感に気がつく。 ・・・なぜ、倒れない? 自分は間違いなく刺したはずだ。 なのになぜ、目の前の青年は声もあげなければ身動きひとつもしないのだ? ゾッとする感覚に背筋が冷えてくる。 見上げた青年の顔は、 ・・・笑っていた。 「ひっ!」 悲鳴をあげて思わず飛び退く。 「どうしたの?もう、終わり?」 ユラリと刀を引きずりながら近寄ってくる。 「く、来るなっ!なに笑ってんだ!あ、頭おかしいんじゃねぇのか!」 軽くパニックになった男が振り回した剣が青年に傷をつけて、そのまま手からスッポ抜けていった。 「あ、剣とんじゃった。じゃあもういいや。」 青年は残念そうにいうと、引きずっていた刀をかまえる。 「や、やめてくれ!頼む!」 「なにをやめてほしいことがあるわけ?変わったやつ。」 「・・・は?」 ズバッ! 一切の躊躇もなく降り下ろされた刀に切られた男が、ドサリと鈍い音をたてて倒れる。 青年は困惑の表情のままこと切れた男を見下ろしながら、軽く刀を振って血を飛ばした。 既にその顔からは笑みは消えており、刀をおさめると興味を失ったように踵を返すと歩き出す。 「あー、疲れた。でも慣れって恐ろしいな。・・・さすが日本人。」 疲れたと言いながらも無表情でとくに表情にはでていない。 元々無表情らしい。 「・・・帰ろ。」 いつの間にかすっかり喧騒のやんだ辺りは暗く、青年の姿をゆっくりと飲み込んでいった。
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