Episode1 責任

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(死神の気配や魔力は感じない……だが、自然現象というには あまりにも……) 異変の原因を考える黒斗だが、その間に邦之の頭頂部は膨脹し、やがて風船の如く弾けて裂けた。 裂けた頭部から飛び出すのは おぞましい鮮血、ピンク色をした大小様々の肉片、砕けた頭蓋骨(ずがいこつ)、そしてバラバラに砕けた、ミミズやヒルのような形をした脳味噌の破片。 それらの破片は、宙を舞った後、重力に従い地べたに落ちていくのが普通だろう。 だが、それらは地面に落ちることは無かった。 何故なら、骨を除いた肉と脳の破片と血飛沫は その形を大きく変え、赤色の蝶となって飛び上がったからだ。 「何が……起きているんだ……?」 信じられない出来事に、声を出して驚く黒斗。 血や肉片が変化した蝶が、夜空に飛び上がって去っていく幻想的な光景。 赤色の蝶が飛び交う様は確かに美しい。そして血生臭く、おぞましかった。 その蝶を黒斗が捕まえようとしても、蝶には実体が無いのか、手が すり抜けるだけで掴めない。 (こんなこと、普通では ありえない……だが魔力は やはり感じられない…………分からないように細工しているのか……?) 蝶だけでなく、周囲にも注意を配るが死神の気配は無い。 そうしている間に無数の蝶は居なくなり、あとには頭部が裂け、その衝撃による影響で目玉が飛び出ている邦之の首だけが残った。 そのまま黒斗は、残された邦之の死体をじっと見つめる。 けれど、死体が動く気配は全く無かった。 (コイツも試練の水を飲んでいる……死んだあとに動く屍となる筈だが……微動だにしないな) 試練の水を飲んだ人間は、皆 死したあとに動く屍と化していた。 しかし邦之はゾンビとなる代わりに、肉片が蝶に変化した。それが何を意味するのか――黒斗には見当もつかない。 だが、この出来事が良いことでないのは確かだ。 先程から胸騒ぎと冷や汗が止まらないのだから。 (……気配は無くとも、死神や神々の仕業には違いない…………何が狙いかは分からないが……よく注意しておかなくては……) デスサイズの刃から邦之の首を外して地面に置くと、黒斗はゲートを潜って この場から立ち去った――
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