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「香澄なら お母さんとお父さんの家に泊まってるわ。お母さんも久しぶりに孫と過ごしたいと言っていたし、丁度良いと思って行かせたのよ」
「そうなのかい。じゃあ、今日は2人っきりなんだね」
茜の言葉を受け、今度は寛の方から彼女に抱きついた。
彼の髪から漂うシトラスの匂いに茜は心地良さそうに目を細める。
「寛さん大好き。もう寛さんのことしか目に入らないわ」
「ハハハ、旦那にも結婚する時 そう言ったんじゃないのかな?」
「もう、それは昔のことじゃない! 今は貴方が一番なの!」
そう言って茜は寛を抱く力を強める。
茜と寛――随分と仲睦(なかむつ)まじい男女であるが、2人は夫婦ではない。
茜には籍を入れている夫が ちゃんと存在している。
それにも関わらず、彼女は彼を愛してしまった。
不倫してしまったのだ。
茜には浩司(こうじ)という2歳年下の夫がいる。
3年前、茜が友人に数合わせの為に連れて来られた合コンで出会った男性だ。
浩司は大人しく、口数も少ない男だったが一つ一つの仕草が上品で、とても優しい性格をしており、そんな彼のことが気に入った茜はアドレスを交換し、友人としての付き合いを始めた。
そして日が進むにつれて茜の彼に対する思いは募っていき、やがて茜の方から告白して2人は夫婦となった。
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