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凍えるような風の吹く、真冬。午前三時。
濃紺の装束を身に纏った男が、とある屋敷の一室に降り立った。
忽然と現れたこの男、日本人ならば誰もが一度は目にしたことがあるであろう、有名な者共の扮装をしている――。
即ち。履いた袴の裾は同色の脚絆できゅっと締められ、袖からはシックな手甲、胸元からはおしゃれな網シャツがちらり。口元は布で覆われ、額では、被った頭巾に縫い付けられた鉄が鈍く、ぎらり――。
そう。見た目に明らかな、ジャパニーズ・ニンジャである!
ジャパニーズ・ニンジャは最初に降り立った部屋を素早く抜け、廊下に出た。
まっすぐ長く続く板張りを、備え付けられた松明が照らしている。
ニンジャの目元もまた、炎に照らし出された。
若い。爛々とした目をしている。
その目は、張り詰めているようにも、どこか楽しんでいるようにも見えた。
ニンジャは慎重に、慎重にほの暗い廊下を進む。内股をかすかに擦り合わせつつ、音もなく、速やかに。
柱を四本ほど通り過ぎたところで、ニンジャは不意に足を止めた。
やや険しい目になり、右手側の壁に両手をつく。ニンジャは小さく、とても小さく息を吐いた。
不気味なまでに、静かな夜――。
ニンジャは、両の手にわずかな力を込めた――。
その時。
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