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「あぁあああぁぁああああぁっ!!」
「はっ!?」
耳元で響く寛の悲痛なる叫び声と、何かが倒れたような鈍い音。
それによって我に返った彼女は音が した方を見ると、左足首に包丁が刺さっている寛が仰向けに倒れていた。
何が起きたのか頭が追いつかない茜だが、そんな彼女に お構いなしに、テーブルがガタンと音を立ててひっくり返った。
「茜……君が……君が悪いんだ、よ……?」
寛ではない男の声が後ろから聞こえ、おもむろに振り返る茜。
その先には、光を失った濁りきった目で茜を見下ろす浩司の姿があった。
「…………こう、じ……?」
あんぐりと口を開けて彼を見上げるも、彼女は未だに この頭が混乱しているのが、怯えた表情を浮かべるでもなく、人形のような無表情のまま。
一方 浩司は固まって動かない茜を一瞥すると、脇を通り抜け、倒れている寛へと歩み寄っていく。
「だっ……! 誰だ、お前は!? こんなことをして、な、にが したいんだっ!」
舌が縺れて上手く喋れない寛だが、彼の言葉など聞こえていないように浩司は反応せず、足首に刺さっている包丁を躊躇(ちゅうちょ)なく引き抜いた。
「ぎ、ぁぁあああ!!」
「あっ…………寛さんっ!」
寛の悲鳴に反応し、椅子から立ち上がる茜だったが、震える足に力は入らず、そのまま尻餅を ついてしまう。
また、包丁が抜けたことにより寛の黒いスーツが じわじわと赤色に浸食され始めた。
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