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「汚いなあ……誰が掃除すると思ってるんだよ茜……血だけじゃなくてゲロまで片付けさせる気?」
虚ろな瞳で呟いたかと思うと、浩司は その目を くわっと大きく見開き、引き抜いた包丁を またしても寛の首に刺しこんだ。
その刹那 寛はビクンと跳ね上がり、反り気味になっていた身体は力尽き、再び床に全身を密着させる。
「あ…………ぁぁああぁ…………」
座り込んだまま頭を抱え、狂おしげに呻く茜。
そんな彼女の声に応じるように寛の頭はガクンと横を向き、彼の目と茜の目が合った。
「やあああああああああああああぁあああっ!!」
金切り声をあげ、寛の顔を見ないように茜は目を覆う。
開かれたままの目は僅かに上を向いており、僅かに涙が滲んでいる。
うっすらと開いている唇からは唾液と血液、そして鼻から垂れてきた鼻水が混じり、頬や顎に流れていく。
生前の紳士的で、穏やかな笑顔が素敵だった寛の面影は その遺体には全く残っていない。
そんな変わり果てた彼の姿を見たくない一心で、茜は目を逸らし続けた。
しかし、その場に腰を抜かして動けない彼女を浩司が放っておく訳がない。
彼は寛の首から包丁を抜くと、ゾンビのようにフラフラとした足取りで茜に近づき、血糊(ちのり)がベッタリと ついている手で彼女の首を鷲掴みにした。
突然 首を絞められ、呼吸が苦しくなる茜。
彼女は目を開き、目前の浩司を見据える。
「やめ…………で……どし、て……こんな…………」
「どうして、だって? そんなの君を この おじさんから取り戻す為に決まってるじゃないか」
首を絞めていた浩司の手が離され、苦しみから解放された茜はゴホゴホと酷く咳き込みながら脱力して床に手を ついた。
青ざめた顔に脂汗を浮かべて咳を繰り返す彼女の顎を浩司は掴み、強引に上を向かせて自分と顔を合わせる。
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