prologue

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「……気づいていないと思ってたの? だとしたら君は 相当 能天気だ。ずっと浮かない表情だったくせに、ある日を境に いきいきとし始めて……様子が変わったことに気づかない訳がない」 浩司の言葉に茜は何も言うことが出来ない。 寛が殺されたショックと悲しみ、そして彼を殺した浩司が目の前に居るという恐怖。 極限状態に近い彼女の唇からは、言葉ではなく浅く乱れた呼吸しか出てこなかった。 それをいいことに、浩司はベラベラと話を続ける。 「でも、証拠を掴むのは難しかったよ。どうやら君達は電話ではなくメールでのやり取りが主(おも)だったみたいだから、盗聴器は意味が無いし、隠しカメラなんかじゃスマホの画面はハッキリ見えない。 それにメールだったら消して証拠隠滅できるからね。アドレスだって、登録しなくても直接メールの宛先に入力すればいい。 尾行しようにも君達は いつ会うのか分からないし、僕もビジネスマンだから簡単に会社は休めない。君は なかなかガードが固かったよ」 一旦 言葉を区切り、深呼吸をした後に浩司は言葉を続ける。 「……でも、考えたんだ。君は僕が近くに居るから警戒している。だから僕が暫く離れた場所に居れば、油断するんじゃないかと考えた。出張で留守にすると嘘を吐いたら、案の定だった。 盗聴器があるとも知らずに家の中で奴に電話を かけて、聞いてるコッチが恥ずかしくなるような下ネタトークを繰り広げて……挙げ句に奴を家に呼び出した。これには さすがの僕も冷静さを失ったよ」 浩司は目を細め、鋭い眼光を茜に向けた。 「君は僕のものなのに、こんな どこの馬の骨とも知らない中年に絆(ほだ)されて……だから取り戻したんだよ。多少の犠牲は払ったけど、仕方ないよね」 「多少の…………犠牲……」 茜の脳裏に目や舌を取られた子供の生首が過る。
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