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「まさか……あの子を殺したのは……」
「僕だよ。君が僕と一緒に寝てるベッドで あの男と夜の営みをするかと思うと、気が狂いそうになって我慢できなかった。
だから、申し訳なかったけど八つ当たりさせてもらったんだ。殺すつもりはなかったけど、頭をガツンとやったら力が強すぎたみたいでね。そのまま倒れて死んでしまった。
可哀想なことをしたとは思ってる。だから、せめてもの情けとして母親の お腹の中に戻してやろうと思ったんだ」
「母親の……お腹の……中…………母親の、お腹の中……」
虚ろな瞳でブツブツと復唱する茜。
頭の中は子供の生首、ビーフシチューに入っていた眼球と舌、そして今 浩司が言った“お腹の中に戻す”という単語がグルグルと回っていた。
理解したくない。けれども頭は彼女の思いを無視してバラバラのピースを組み立てていき、残酷な現実を突きつけてくる。
寛が死んだ時と同じ――もしくは それ以上の絶望が茜の小さな肩に重く のしかかった。
飲み込まなかったとはいえ、口に入れたのは事実。
吐き出したとはいえ、噛み潰したのは事実。
もしも気づかなければ、そのまま食べる所だった。
腹を痛めて産んだ我が子を――
これらを茜が理解した瞬間、彼女の中の何かが音を立てて粉々に砕け散った。
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