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草木も眠る丑三つ時――
闇色に染まった大空は暗雲が支配しており、月や星の光を覆い隠している。
それは地上も同じ。
多くの人間が眠りについている住宅街は闇が支配し、光は街灯が作り出す小さなものだけ。
さらに暗雲から降り注ぐ大粒の雨と、時折 不気味に輝く雷鳴、そして木々に生い茂る葉を全て吹き飛ばさんばかりに暴れる風。
決して穏やかとは言えない嵐のような天候に、地上は見舞われていた。
そんな中、迷路のように細い路地で入り組んだ住宅街に、1台のタクシーが現れた。
白いボディに赤色のラインが特徴的な そのタクシーは、フロントガラスに雨を叩きつけられながらも めげることなく前へ前へと進んでいく。
やがてタクシーは大きなアパートの裏側にポツンと建つ、2階建ての一軒屋の前に辿り着き、そこで扉が開かれた。
「うわっ、すごい大荒れだ……茜(あかね)さん、気をつけて」
後部座席から降りてきたのは、シワだらけのスーツを纏った中年の男。
彼は綺麗に撫で付けた髪が強風で乱れることも気にせずに、傘を さしながら車内に残っている女性へと手を伸ばす。
女は彼の手を掴むと、平和な車内から ゆっくりと外へと出てきた。
その刹那、肩まで伸ばされている髪はバサバサと たなびき、風からの乱暴な挨拶に、彼女は悲鳴を あげながら目を固く閉じた。
「やだ、もう! 飛ばされちゃいそう!!」
「早く中に入ろう!」
キャアキャアと騒ぐ女を支えつつ男は踏ん張って玄関へと向かい、女から手渡された鍵を使って逃げるように中へ入っていった。
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