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ある日の放課後――
水無月高校
三年A組 教室内にて
一日の授業が終わり、帰宅を促すチャイムの音に生徒達の顔が綻ぶ。
「はあ……終わった終わったー」
「おい陸上部はグラウンド集合だぞ! 逃げんなよ!」
教室の中で生徒達は思い思いに動きまわる。
帰り支度をする者や部活に向かう者、友人同士で集まり放課後をどう過ごすか相談するなど、様々だ。
そんな騒がしい教室の中で、一人で黙々と鞄に教科書を詰めている女子生徒がいた。
窓際の一番前の席に座るおかっぱ頭の女子生徒は、誰も見ようとはせず、周りの生徒も彼女を見ようともしない。
ただ一人、彼女の斜め後ろに座る男子生徒を除いては。
「一輝! 何やってんだ置いてくぞ!」
教室の出入口に立つ男子生徒に声をかけられ、一輝は鞄を手に持ち、慌ててそちらに向かった。
「悪い、待たせたな晋介」
「勘弁してくれよ……杏里に殴られるのオレなんだぞ……」
唇を尖らせる晋介に一輝は苦笑いを返し、そっと振り返って女子生徒を見る。
「……一輝、ひまりは もうオレ達と関わりたくないんだよ。誘っても、お互いに嫌な気持ちになるだけじゃないの?」
「ああ……そう、だな」
溜め息まじりに紡がれた晋介の言葉に一輝は頷き、二人は共に教室を出ていく。
その一方、ひまりと呼ばれた女子生徒は鞄の中にあるスマホを手に取り、受信したメールを確認して微笑していた――
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