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「誰から?」
シチューを頬張ったまま寛が訊ねると、茜は ふるふると首を横に振って、スマホをテーブルの上に置いた。
「分からない。何も書かれてなかったの。きっと ただの迷惑メールだと思う。こんな真夜中に暇な人達ね」
顔も知らぬ送り主を鼻で笑う茜だが、そんな彼女を嘲笑うように再びスマホの着信音が鳴った。
「あら、またメールだわ」
先程のは誤って送信したメールだったのかと、茜は再度スマホを手に取って確認する。
しかし、表示されたのは やはり何も書かれていない真っ白な画面であった。
短い間隔で送られてきた空白メールには、茜も無意識のうちにムッとした表情となる。
「あっ、すごい! 美味しい美味しい」
茜の心情とは真逆に明るい寛の声が耳に届いた。
彼はシチューに喜んでいてテンションが高かったが、そのテンションが さらに もう一段階上がったような彼の様子を、茜は上目使いで見やる。
「どうしたの、そんなに はしゃいで?」
「いやあ、さすが茜さんだなあって……僕が牛タン好きなのを覚えていてくれたのでしょう?」
「牛タン……? ええ、貴方が牛タンを好きなのは知ってるけど……それが どうしたの?」
「今の一口に牛タンが入っていたんだ。まろやかで美味しかったな」
ニッコリと微笑む寛。
そんな彼に茜も「良かったわね」と笑みを返すが、頭の中はハテナマークで いっぱいだった。
確かに寛が牛タン好きなのは覚えているし、最初は牛タンを入れようとも考えていた。
だが、材料を買いに行ったスーパーには国産ではなくオーストラリア産の牛タンしかなかったし、その牛タンも色が濃くて あまり良さそうなものではなかった為、結局 入れるのを やめたのだ。
それなのに何故 寛は牛タンが美味しいと喜んでいるのだろう。
ただの牛肉をタンと間違えているのだろうか。
それとも、牛タンを買わなかったというのが記憶違い?
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