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(あ~あ、これは早く戻らないと何を言われるかわかんないな
下手したらお仕置きされ……)
そこまで思ってカァーっと顔が熱くなる
(お、お仕置きとか無いから!)
勝手な想像に一人頬を染めていると、隣からクスッと小さな笑い声が聞こえて来て我に返る
「よかったね、純恋ちゃんの想いが届いて」
いつもの穏やかな声に振り向けば、さっきまでとは違う心からの笑顔が私へと向けられていた
「……ありがとうございます」
込み上げる嬉しさに満面の笑みを返すと、少しだけ先生の表情が切なげに歪んだ気がした
が、それは一瞬ですぐにいつもの笑顔に戻る
だから私もその違和感に気づかぬ振りをして笑った
「最近の長瀬君は反抗期だね
ま、僕に対してだけだろうけどね」
そう言って笑った先生に「すみません」と謝るしかない
だって長瀬さんの態度は失礼でしかないもの
(後でキツく言わないと!)
そんな意気込みで一人頷けば、またしてもクスリと笑われてしまう
「本当はかなり悔しいけど…でも安心した」
続いて告げられた言葉に「え?」首を傾げれば
「だって純恋ちゃんすごくいい顔してる」
私から視線を逸らさずそう呟くと、小さく息を吐き出しエレベーターの壁に背を預け、そしてもう一度私を真っ直ぐ見つめて言った
「そんな姿は見たくないけど、でももし純恋ちゃんが泣かなきゃいけない事が起きたら…
その時は何も考えずに俺を頼って
必ず君の力になるって約束するから」
そう言って小指を立てるとスっと私の前に差し出しかけて、だけど途中で引っ込めてしまう
「長瀬君に怒られそうだからやめとく
今の彼なら透視とか出来ちゃいそうだからね」
一瞬変わりかけた先生の雰囲気もこの言葉で元に戻る
ちょうどその時エレベーターが目的階に着き開いたドアから先生が降りた
その背を追うように私も続くと後はもういつも通りの先生とのやり取りだった
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