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「ふんっ!どうだか
あいつの場合は厚意ではなく好意だろ
わかってんのか?厚い方じゃなくて好きの方だぞ」
訝しげな視線をまだケーキの箱に向けたまま何やらブツブツと呟いてる
だけどそんな姿も愛しく思えてしまうって、恋は盲目とはよく言ったものだ
「だいたいあいつは昔から純恋の事を……」
「はいはいそんな事ないですから、ほら早く行きましょう」
長瀬さんの呟きを遮る様にトントンと腕に触れて促すと、仕方なくといった具合に助手席のドアを開けてくれる
私が乗り込むと静かにドアが閉められ、回り込んだ長瀬さんが運転席へと乗り込んでくる
こういう所はいつも紳士的で、まるで自分がお姫様にでもなったみたいで少しくすぐったい
「じゃあ行くぞ
あ、原稿もその箱も後ろに置いとけ」
「全くそんなものが純恋の膝を独占するなんて図々しいにも程がある」、と付け加えながら忙しなく私の手から奪ったものを長瀬さんが後ろのシートへと置いていく
「ふふ、ありがとうございます」
こんなやり取りにだって幸せを感じてるのは、きっと私だけじゃなく長瀬さんもだったらいいな
そんな事を思いながらまだ何か言いたげな長瀬さんを横目に胸を熱くしていると、不意に右手を包むようにそっと握られた
「仕方ないから今日のところは俺が毒味してやる
それで何も無ければ純恋も食っていいぞ
但し今回だけだぞ、次からはつき返せ!出来ないなら俺がやる」
鼻息荒く吐き出す言葉とは裏腹に、私の手を包む大きな手は優しくて暖かかった
「ふふ、お願いします」
笑顔でそう言いその手に指を絡ませれば、長瀬さんが「はぁ…」と熱の籠った溜め息をつく
それから少し困った様に笑うと
「早く帰るぞ」
たった一言そう言って……
繋いだ手を持ち上げると慈しむ様に触れるだけのキスを落としたのだった
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