第13章 二人で眠れたら

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「中のものを全部取り出して、代わりに新崎を一杯詰め込んでくれた。だからもうそれは恐怖の箱じゃない。わたしを満たしてくれるもの。安心できるもの…」 菜摘の声が耳の奥に蘇る。わたしを新崎でいっぱいにして。そしたら全部がきれいになれる気がする。 「新崎にしかできなかったの。だって新崎はわたしの好きな人だから。他の人には絶対できない。…わたしは新崎に救われた。これからも絶対救ってくれる。わたしも新崎を助けたい。この先もずっと…、だから、別れない」 「なんでユキトなの。わかんない。…そいつ、菜摘のあの彼のことは承知してるの?この先同時進行で付き合うつもり?」 切り札のように出してきた。俺は落ち着いた声で答えた。 「とりあえず。現状維持で考えてる。先のことはまた考えるよ」 ありさは声のトーンをあげ、勝ち誇ったように言い放った。 「どうだか。あたしは菜摘が彼とキスしたり抱き合ってても平気。気にしないで付き合える。でも、ユキトは男だもんね。そんなの我慢できないでしょ?自分の彼女に他の男が触れるなんて。男は独占欲の塊だもんね」 軽く後ろから殴られたようなショック。…そう、か。彼氏は菜摘に触れないって聞いてたけど。 キスしたり抱きしめたりは、してるんだ…。 思わぬ方向からの攻撃に俺は怯み、沈んだ。一度はあげた顔が再び俯く。覚悟したくせに、まだこんなにショックを受けるなんて。菜摘の全部を引き受けると決めたのに。 俺は全然駄目だなぁ…。 ふと、俺は顔をあげた。ふわっと肩に触れるものを感じる。そっと横を見ると、既に立ち上がった菜摘が俺の肩に小さな手を置いている。俺と目があうと、落ち着いた静かな声で言った。 「新崎、行こう」 何処へ? …それはわからない。でも、俺はゆっくりと立ち上がる。菜摘の後を追うために。彼女が行こうって言うんなら何処へでも一緒に行く。行き先なんかわからなくても。 「菜摘、どこ行くの?こんな時間に出て行くつもり?」 玄関先までついてきたありさが慌てて問い詰める。 「あたしを置いていかないで。もしかしてもう戻らないつもり?この部屋に」 「ここには戻るよ勿論、引き払うまでは。荷物もあるし、わたしの部屋だもん、まだ。家賃も一応払ってるし」 思いつめた様子のないいつも通りの呑気な声。 「でも、新崎はもう出禁でしょ。だから今日は一緒に出る。こいつを今日ひとりにしたくないの。明日はちゃんと帰るから」
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