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怒ってるんじゃない。恥ずかしいんだ。自分の了見の狭さが嫌になる。
菜摘が俺の両腕を掴んでぐっと下から顔を覗き込んできた。
「新崎と付き合い始めてからは一度もしてない。信じて、新崎。こっち向いて」
「…わかってる」
俺はため息をついて彼女を両腕の中に抱きしめた。
「俺ってなんて心の狭い、嫉妬深い男なんだろうと思って…。もともとずっと一緒にいたお前たちの間に後から割り込んで行ったのは俺の方なのにな。なんか情けなくて…」
菜摘は上体を伸ばすようにして俺の首の後ろに手を回し、つま先立ちで俺の唇にそっとキスした。
「そんな風に考えることない。だって、普通の人だったら耐えられないでしょこんなの。新崎の感覚の方がまともだと思う。…それに」
俺の肩先にそっと額を押し当て、独り言のように小さな声で呟く。
「全然妬きもちやいてもらえなかったらそれはそれで何か…、なんて。ちょっと馬鹿っぽいね、考えることが」
「本当だ」
俺は何だか気が抜けたように、少し笑った。
「馬鹿みたいだな。自慢じゃないけど妬きもちなんかいくらでもやける。お前の気がすむまで妬くよ、いつでも」
俺は菜摘の頭を引き寄せ、天下の往来で人目も気にせず激しく熱っぽく唇を重ねた。往来とは言っても住宅街の裏通りだし、それほどの人通りはさすがにないけど。
「…こういうキスじゃないの」
菜摘は唇を離した後、少し上ずった声で言う。
「新崎とするみたいな、こういうのとは全然違う。抱き合うのも、何ていうか…、性的じゃない。異性との触れ合いみたいじゃないんだ。だけどわたしたちにはそれが必要だったの、ずっと。…でも、続けられないことはわかってる、ちゃんと」
「そうだな」
俺は彼女の身体をしっかりと腕に抱きしめた。続けてもいいんだよ、とするっと言えないのは忸怩たる思いだけど。
「今は、とにかく…、少し待って。ゆっくり二人で考えよう。向こうの気持ちや考えもあるだろうし。申し訳ないけど今は保留にして」
「うん。ごめんね、新崎」
彼女の身体の感触をうっとりと感じつつ、ふと気づく。すごく生々しい感触だな、と思ってたけど、さっきから。
「お前、結構薄着じゃないか」
「ああ、うん、割と寒いなぁとは思ってた」
俺はあの部屋へ行った時の服装だから上着もちゃんと着ているが、菜摘は自分の部屋にいた時の姿だから、殆ど部屋着って程度だ。
「着の身着のまま出てきちゃったって感じだね」
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