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そんなやり取りの後、戻らない事もあると母親から聞かされた。
「お母さんの事も全くですか?」
改めて尋ねると、母親が頷いた。
「マユミ?」
呼び掛けてみても、マユミは背を向けたまま振り返りもしなかった。
見た目はマユミに間違いない。なのに別人だった。
「この娘、自分の名前も分かっていないみたいなんです」
「それ、本当ですか?」
呆然とする思いだった。
今は少し距離を置いた方がいいという母親の話しを聞き、セイシロウは早目に部屋を出た。
「あの夜、何かあったのでしょうか?」
「それが私もお父さんも寝ていて気づかなかったんです」
「朝にはマユミは部屋に?」
「そうです。降りてこないので声を掛けたら、今の状態で」
「その時から何も覚えていないと?」
居間に案内してくれた母親が頷いた。
「セイシロウさん、こんな事になって、すまないね!」
居間に現れた父親が、セイシロウに頭を下げた。
「頭を上げてください!」
セイシロウが、うなだれたままの父親の肩に手を伸ばした。
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