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仕事中、セイシロウは妹の言葉を思い出していた。
五年後、十年後、オレはマユミの事を恨んでしまうのだろうかと。
マユミの記憶が回復することは、現時点で誰にも分からない。
だから、回復しないと言い切ることもすると言い切ることも出来なかった。
言えるのは、信じて待つのか、諦めるのかだった。
いつも信じていようとマユミに会いに行く。
しかしマユミはセイシロウを見ても微笑むことはないし、近付けば顔を強ばられた。
セイシロウを見るマユミは、結婚を誓いあったフィアンセと言うには余りに違い過ぎていた。
「披露宴が延期になったんだって?」
たまたま顔を合わせた同期社員が話し掛けてきた。
招待状を送った同僚たちには、マユミの異変を詳しく知っているのはほとんどいない。
知っているのは、マユミが寿退社するまで親しくしていた同じ部署だった古馬リナだけである。
「アレ、こう言うのよくあるの知らないんですか?」
困惑していたセイシロウを見つけ、リナが助け舟を出した。
「先輩方がご結婚された時と違って、今は色々と新郎新婦に準備があるんです」
「そうなの?」
「だから昔の感覚で想像されると、若手は戸惑うですよ!」
「あの件だろう? 反省しているさ」
「本当ですか?」
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