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「マユミ! マユミ!」
遠くで誰かに呼び掛けられた気がして目を開けた。
白い天井が見えていて、ふかふかの布団に私は横たわっていた。
「起きた?」
声に気付いて、部屋を見渡すと出入り口のドアが少しだけ開いていた。
「マユミ、起きた?」
今まで見えていた天井を隠すように、女が視界を遮った。
「ご飯。朝ご飯を食べましょう!」
気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべて、女は温かな掛け布団を逸ってきた。
「マユミ、玉子焼き好きでしょ?」
女が何をさせたいのか分からない。
まだ布団が恋しいのに、私の腕を掴んで引っ張った。
それにしても、この人は誰だろう。
なぜ、ここにいるのだろう。
昨日も一昨日も、その前の日も同じ事を思っていた。
「階段だから、足元に気をつけてね」
先を行く女の後に付いて、階段をゆっくりと下った。
頭が痛い。
なぜ、ここにいるのだろうと思う様になってから、それは重なっていた。
何かを思い出そうとすると、頭が痛くて何も考えられない。
気が付くと席に座らされ、少しコゲた玉子焼きが置いてあった。
「いただきます。食べる前に、言うの。マユミも言うのよ」
目の前に座った女が、私の事をマユミと言っている。
私の名前は、マユミと言うのだろうか。
それも思い出そうとすると、頭が痛くなる。
「いただきます!」
「そうよ。マユミ、よく出来たわ!」
女が私を見て、手を叩きながら喜んだ。
「いただきます」
「そうよ。そう!」
あまりに女が喜ぶから、今聞いたばかりの言葉を繰り返してみた。
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