フェンスの中

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『今日の夜、肝試ししねえ?』  夜に出歩けそうな友人に片っ端から連絡を取った。チャットアプリを主に、メールやSNSを通じてメッセージを送った。結局、OKを出したのはよく休み時間に怪談で盛り上がるAだけだったが、誰もいないよりはマシだ。  俺はことの顛末をつられやすいようにちょっと嘘を混ぜながらAに話した。狙い通り『絶対行く』と言い出したので、深夜12時に中学校前で集合することにした。  深夜。懐中電灯とスマホだけを持って、俺は中学校の校門前でAを待っていた。少ししか離れていない所に心霊スポットがあるとなると、毎日通っている学校さえ恐ろしい場所に思えてくる。  そっと振り返って門の奥の校舎を見て、すぐに目を逸らした。明かりのない校舎に光の球が浮いていたりしたら、フェンスの中に入る前に逃げ出してしまいそうだ。身震いしていると、自転車の音が近づいて来た。 「ゴメン、ちょっと遅れた」  Aはそう言いながら、自転車を停める。家族に見つかりそうになったらしい。時間を見ると深夜12時を数分過ぎた所だった。 「いいよ、数分くらい。それより早く行こうぜ」  俺が急かすと、Aがニヤッと笑った。相当楽しみだったんだろう。 「でも、本当に入っていいのか?お前の先輩がビビりながら絶対行くなって言ってたんだろ?」  先輩の性格を知らないAは、俺が混ぜ込んだ嘘にすっかり騙されている。 「だから行くんだよ。ヤバそうなトコじゃなきゃつまんないだろ」  我ながら、今のはカッコ良い。Aも「おぉ」と感心した。「こっちにある」と言いながら、Aをフェンス囲いに案内する。俺もAも無言だ。たった100メートル足らずの道のりが異様に長く思えた。もしも着かなかったら……と思った時、ようやく五叉路に着いた。 「ここ」  フェンスの中は闇が更に深くなっていた。近づいてみても木々すらシルエットにしか見えない。ゴクリと喉がなった。 「……じゃあ、入るか」 「えっ」  Aが硬い表情で俺を見つめた。入る気で来たが、実物を見て怖気付いたらしい。実は俺も回れ右して帰りたい気分になっていたのだが、ここまで来たからには入らなければならない、という思いもあった。
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