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「ここまで来て、入らずには帰れないだろ」
そう言ってやると、Aはフェンスと俺を交互に見た。しばらく沈黙があって、彼はゆっくりと頷いた。
「俺から入るから」
Aはこの言葉にも頷きを返すと、懐中電灯でフェンスを照らし出した。ガシャガシャと音を立てて、俺はフェンスをよじ登る。Aから懐中電灯を受け取って、内側に飛び降りた。続いてAが入ってきて、俺たちは雑木林の中に懐中電灯を向けた。まったく明るくならない。
……想像する。近くの木立の影から、いきなり手が伸びてきて俺の手首に掴みかかって来るのではないか――
「怖い」
Aが呟いた。
「怖いな」
「……もう帰る?」
「……」
Aの提案に頷きそうになって、慌てて首を横に振った。
「小屋が、あるんだ」
昼間アタリをつけた所を照らす。もちろん、光は届かない。
「行かない?」
「もう帰ろうぜ」
首を横に振ったAの顔は真っ青だった。仕方がないから、帰ろうとした時。
ザザッ。
雑草を踏みしめる音がした。思わず音のした方を見ようとして、
「アーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
絶叫と共に、隣のAが雑木林の中へ走って行った。俺は状況が把握できないまま、奥へ行く足音とそれを追うゾザザザザザと言う変な物音を聞いていた。
「……A!」
呆けてる場合じゃない。俺は2つの物音の余韻を追って、雑木林の中に入った。
雑木林の中はすごく広かった。本当にあの小さな土地なのかと思うほどだ。
「A……?」
呼びかけながら進む。 木々の合間に何かが立っている気がして、明かりを向けたりしながら一歩一歩進んでいく。暫くして、建物のシルエットが見えた。近寄ると大きさはプレハブの倉庫くらいで、ログハウスのような小屋だった。昼間見えたのはコレだろう。
「Aー!どこにいるー!?Aー!」
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