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大声で呼びかける。小屋の中にいるかもしれないと思い、取った行動だったが今にして思えば間違いだった。
小屋の向う側からザザザ、と近づいてくるような音が聞こえて来たのだ。
Aを追って行ったものだ。俺はそう察してもと来た道を走った。来るときの広い感じは何だったのかと思うほど早くフェンスが見えてくる。それに、こちらを見ている人影も。途端に俺の心に希望が湧いた。
「先輩!!!」
よく見えなかったが、確信があった。先輩、先輩と叫びながらフェンスにぶつかるようにして人影に詰め寄った。
「助け、助けてください、先輩!!」
実際、その人影は先輩だった。バイト帰りらしいその人は珍しくタバコを咥えていた。
「やっぱりいたな」
対して興味も無さそうに言う。フェンスに背中を預けて、タバコをふかし始める。
「助けてください、変なのに追われてるんです」
「だから、入るなと言ったんだが?」
「入ってきて倒してくださいよ!」
「お前が出て来ればいいじゃないか。余裕はあるだろ」
「Aがまだ中にいるんです!」
そこで、先輩はチラと俺を見た。呆れたような表情だった。
「人の忠告を聞かなかった罰だ。あきらめろ」
「ふざけんなよ!助けろ!」
「随分と生意気な口を利くじゃないか」
焦れったい先輩の態度に、フェンスを揺らしながら罵倒混じりの抗議をしていると、背後で例の音が聞こえた。すぐ近くだ。もう10メートルもないだろう。
「た……助けてください……助けて……!」
このままでは捕まってしまう。捕まったらどうなる?Aは捕まったのか?先輩に見捨てられるのか、俺は。嫌だ、無理だ、怖い、怖い、怖い、怖い!
草をかき分ける音はどんどん近づいてくる。もうダメだ、捕まってしまう。逃げられない、動けない。まるで足がセメントで固められてしまったようだった。
「たすけて……」
渇ききった口から、掠れた声が出た。足音はもう、すぐ側まで来ている。これは罰だ。最初から先輩は言っていた。「入るな」、「こわいもの」がいるぞと。忠告を聞かなかったのは、俺の方。悪いのは俺の方。罰は受けなくてはならない。罰を。罰を……。
「おい」
先輩はタバコを口から外して、こちらは見ずに短く言った。
「しゃがめ」
考える暇もなく、俺はその場にしゃがみ込んだ。
先輩はタバコを深く吸い込み、一瞬前に俺の頭があった場所に煙を吹き付けた。
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